2015年12月02日
category : 福耳通信 @三宅 真弥なぜ帳簿を付け仕訳をするのか!?
あらゆる取引を記録し、経営の実態を知るには、複式簿記が唯一完璧な方法であるとして、ヨーロッパでは18世紀後半から19世紀にかけての産業革命の頃には、製造業、小売業、病院、レストランなどで複式簿記が使われるようになりました。
毎日、取引の記録を記帳し複式簿記によって仕訳を行うことは、今や商売の常識となっていますが、この複式簿記は、15世紀のヴェネチアで数学者ルカ・パチョーリが著者「スンマ」の中で20数項で解説したことが最初と言われています。
その中でパチョーリは、商売継続の3条件として、
1.資金
2.帳簿をきちんとつける
3.取引を借方と貸方など秩序だった方法で整理する
をあげ、取引を記録し整理しなければ混乱し、「商人は苦悩の中におかれる」と書いています。
やがてこの複式簿記は、英語、オランダ語、ドイツ語などに翻訳され、全ヨーロッパに広がりました。
商品が飛ぶように売れたが、過剰在庫と資金不足で火の車
18世紀のイギリスは、世界最大の工業国であり、輸出・輸入大国でもありました。
当時、イギリス社会にはすでに会計の文化と教育がすっかり浸透し、様々な業界で、複式簿記が使われるようになっていました。
高級陶磁器で知られるウェッジウッドの創業者ジョサイア・ウェッジウッド(1730~1795年)は、産業革命で生まれた多くの富裕層に高級陶磁器を販売して業績を伸ばしました。
イングランドのシャーロット王妃にも愛用された「クイーンズウェア」に代表される高級陶磁器に誰もが熱狂しました。
売上好調なウェッジウッドでしたが、実のところ、会社の内情は、過剰在庫を抱え、資金繰りにも窮している状態にありました。
原因究明のため複式簿記を導入した
ウェッジウッドは、複式簿記を導入し、あらゆる勘定科目と仕事の流れをチェックしました。すると、次のような問題点を発見したのです。
・価格設定が何の根拠もなく行われていた。
・次々と新商品を出すため、在庫を多く抱えていた。
・業績拡大に伴い原材料費や労務費が予想以上に増加していた。
・資金回収が追いつかず、運転資金が不足していた。
・少数の富裕層向けの高級品に頼った利益構造になっており、支出が収入を上回ることがあった。
・従業員による不正が行われていた。
固定費と変動費の違いを知り大量生産のメリットを発見
さらに帳簿の分析を進める中で、ウェッジウッドは、陶磁器の型の製作費、工場の賃貸料、人件費など生産数量に関係なく、ほぼ一定の費用が発生する固定費と、材料費など生産数量によって費用が変化する変動費の違いに気づきました。
生産数量が増えても固定費が変わらないのであれば、大量に生産すれば、製品1個あたりの固定費は安くできることに気づきます。ウェッジウッドは、製陶業では、初めて工場制生産による大量生産を実現し、少数の富裕層向けの高級品だけでなく、中流層向けの製品の販売も強化したのでした。
会計専門家を置き、財務内容のチェックを依頼
ウェッジウッドは、帳簿のチェックを通して、会計主任の横領が判明したことで、会社の業績内容を正しく把握し、かつ不正を防止するには、日々の記帳を定期的に締めて、その正確性を自ら確認することが必要であると考えました。
そこで信頼できる会計士に、会計担当者の作成した会計帳簿を監査して、週に一度、必ず自分が帳簿を見られる状態にして欲しいと頼みました。このようにして、ウェッジウッドは、毎週月曜日に最新の業績を確認したそうです。
複式簿記を経営の意思決定に活用
ウェッジウッドは、過去の販売実績に基づいた将来予測から生産計画を立てて事業を行うなど、複式簿記を、経営内容の把握と経営の意思決定に役立てるための手段としました。まさに会計で会社を強くした人物ともいえるでしょう。
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三宅 真弥
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